1.法制定の背景

海岸ごみについては、これまでも行政機関や漁協、住民団体等により様々な取組がなされてきましたが、なお処理し切れない量と質の海岸漂着物が各地の海岸に流れ着いています。我が国に漂着する海岸漂着物は、地域によっては周辺国から我が国の海岸に漂着するものが多くみられるものの、全国的にみれば国内に由来するものが多いと言われています。国内に由来して発生する海岸漂着物は、山、川、海へとつながる水の流れを通じて海岸に漂着したものであって、海岸を有する地域だけでなく、広範な国民による取組が必要となっています。

こうした状況を踏まえ、平成21年7月に、海岸漂着物対策の推進を図ることを目的として、「美しく豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境の保全に係る海岸漂着物等の処理等の推進に関する法律」(海岸漂着物処理推進法)が成立し、公布されました。

2.海岸漂着物対策の基本的方向性

海岸漂着物対策の実施に際しては、海岸の良好な環境を保全するとともに、海岸漂着物等によって損なわれる環境を再生することを旨として行われることが肝要です。これを踏まえ、海岸漂着物対策を推進するため、
○海岸漂着物等の円滑な処理とその発生抑制を両輪として講ずること
○国、地方公共団体、民間団体など、多様な主体の適切な役割分担と連携の確保を図ること
○周辺国との間で国際的な協力の推進を図ること
を対策の3つの柱とし、海岸漂着物等の円滑な処理やその効果的な発生抑制を図っていくこととなります。

(1)海岸漂着物等の円滑な処理

海岸漂着物等の円滑な処理に関し、海岸管理者等の処理の責任と市町村の協力義務が規定されました。また、地域外からの海岸漂着物に対しては、都道府県知事が、当該他の都道府県の知事に対して、海岸漂着物の処理やその発生抑制等に関して協力を求めることができます。この場合、環境大臣は、必要に応じて、当該協力に関し、あっせんを行うことができます。

(2)海岸漂着物等の効果的な発生抑制

① 3Rの推進による循環型社会の形成
海岸漂着物等の発生抑制を図るためには、海岸漂着物等となり得るごみ等の発生抑制に努めることが重要です。このため、国や地方公共団体は、3R(リデュース、リユース、リサイクル)の推進を図ることを通じて、大量生産、大量消費、大量廃棄の社会構造を見直し、循環型社会の実現を図るよう努めます。

② 発生の状況及び原因に関する実態把握
国や地方公共団体は、海岸漂着物等の発生の状況や原因を把握するため定期的に調査を行うよう努め、その結果を踏まえて海岸漂着物等の発生抑制を図るために必要な施策を企画立案し、実施するよう努めます。また、我が国から周辺国に漂着する海岸漂着物の発生抑制を図ることも重要であり、国は、我が国から周辺国に漂着する物について可能な限り実態の把握に努めます。

③ ごみ等の適正な処理等の推進
海岸漂着物には、生活系ごみや、事業活動で不要となった用具等が適正に処分されずに、その一部が河川や水路を経て海域に流出したものがあります。これらを廃棄物として適正に処分することが、ひいては海岸漂着物等の発生抑制に資することとなります。このような観点から、国民は、日常生活に伴うごみ等の発生抑制に努め、リサイクルのための分別収集への協力等の取組を通じ、海岸漂着物等の発生抑制に努めなければなりません。また、事業者は、事業活動に伴って生じる廃棄物を適正に処分すること等により、海岸漂着物等の発生抑制に努めなければなりません。

④ ごみ等の投棄の防止
海岸漂着物等の発生抑制を図るためには、陸域や海域におけるごみ等の不法投棄の防止を図ることが重要です。海岸を有する地域だけではなく、広く各界各層の国民が海岸漂着物の問題への認識を深め、一人ひとりが当事者意識をもって陸域や海域においてごみ等の投棄を行わないことが必要です。
このため、国や地方公共団体は、環境教育の推進やインターネットやパンフレット等を通じて、海岸漂着物等の実態を国民に周知する等、発生抑制の呼びかけを効果的に進め、広く国民の環境保全に対する意識の高揚とモラルの向上を図るよう努めます。また、地方公共団体においては環境美化条例の制定等により市街地等におけるごみ等の投棄の防止に努めることが必要です。

⑤ ごみ等の水域等への流出又は飛散の防止
海岸漂着物等の発生抑制のためには、土地から水域等へのごみ等の流出又は飛散を防止することが重要です。これらの海岸漂着物の中には、生活系ごみ等のほかに、流木等の自然由来のものもみられます。このため、国民や事業者は、その所持する物が水域等へ流出又は飛散することのないよう、その所持する物や管理する土地を適正に維持・管理すること等によって、海岸漂着物等の発生抑制に努めなければなりません。

⑥ 海域における漂流物等の回収対策の推進
海岸漂着物は、海域を漂流した後に海岸に漂着するものであるため、海域に漂流する流木やごみ等(漂流物)や海底に堆積又は散乱するごみ等(海底の堆積物)の回収対策を講ずることが重要です。このため、国や地方公共団体等が連携・協力を図りつつ、漂流物や海底の堆積物の回収対策の推進を図ります。

(3)多様な主体の適切な役割分担と連携の確保

海岸漂着物対策がより大きな成果を得るためには、国や地方公共団体のほか、国民や民間団体等の多様な主体が、それぞれの立場から積極的に取組を進めるとともに、相互に連携・協力することが必要です。海岸漂着物は、山、川、海へとつながる河川や水路を経由して発生するものであることから、改善のためには海岸を有する地域のみならず広範な国民による協力が不可欠です。このため、地方公共団体においても、地域の関係者の連携・協力が進められるよう、海岸漂着物に関する知識の普及、ボランティアに関する情報の提供、表彰等の施策を講ずることが望まれます。

(4)国際協力の推進
海岸漂着物には、周辺国から大量に漂着した廃ポリタンクや医療廃棄物等がある一方で、我が国から周辺国の海岸に漂着する物もあります。海岸漂着物が我が国及び周辺国にとって共通の課題であることを念頭に置きながら、問題の解決に向けた国際協力の推進が図られなければなりません。このため、国は、① 関係国間の政策対話等の推進、② 関係国への要請の実施等、③ 民間団体等や学識経験者による国際的活動との連携、等の推進・強化に努めます。

(5)その他海岸漂着物対策の実施に必要な事項

海岸漂着物は国民生活に起因するところが多いことから、国民一人ひとりが海岸漂着物の問題についての理解を深め、当事者意識をもって取組を行うことが重要です。国は、地方公共団体や民間団体等が実施する海岸漂着物対策に関する情報を収集、整理し、これらの情報をインターネット等を活用して広報すること等を通じて、広く関係者に情報提供を行うよう努めます。地方公共団体は、地域住民や民間団体等に対し、地域における海岸漂着物等の実態や海岸漂着物対策の実施状況等に関して積極的かつ効果的な周知を図る等、普及啓発に努めます。

また、技術開発・調査研究等の推進等の観点から、国は、①海岸漂着物等及び漂流物の効率的かつ効果的な回収に向けた手法、②多種類の物質を含む海岸漂着物等について適正かつ効率的に処分できるようにするための処理技術の研究や技術開発を推進するよう努めます。

岡山県パンフレットより引用