瀬戸内海環境保全特別措置法改正_栄養塩類の供給ほか

令和3年3月3日環境新聞記事(2件引用)

政府は令和3年2月26日、瀬戸内海環境保全特別措置法(以下「特措法」と略。)の改正案を閣議決定しました。瀬戸内海では、窒素やリンなどの栄養塩類(海洋生態系の底辺を支える植物プランクトンの光合成に使用される。)の削減により水質改善が進む一方で、漁業への悪影響も生じていることから、地域の実情に応じて栄養塩類の供給を可能とする制度を創設し、これまでの「規制」中心から、きめ細かな「管理」へと水環境行政を転換します。また、温室効果ガスの吸収源となる藻場の再生・創出を後押しし、海洋プラスチックごみの排出抑制に地域全体で取り組む規定なども盛り込みました。

瀬戸内海では特措法に基づき、水質汚濁防止法と合わせて化学的酸素要求量(COD)や窒素・リンの汚濁負荷量を削減する規制強化により、一部の海域を除いて水質の改善が一定程度進みました。一方で、一部の水域では、栄養塩類の不足などによるノリの色落ちなど、漁業への悪影響が続いています。現行の特措法では、栄養塩類を供給する対策を想定していないため、今回の法改正でそのためのルールを整備することにしたものです。

1.改正内容

【栄養塩類管理制度の創設】
栄養塩類管理制度を創設し、瀬戸内海沿岸の関係府県知事が策定する計画に基づき、特定の海域への栄養塩類の供給を可能にします。計画には、水質の目標値、栄養塩類供給の実施方法、水質の測定方法などを記載します。計画を策定する際は、栄養塩類の供給が環境に及ぼす影響について調査、予測、評価、関係する自治体や環境大臣などへの意見聴取や協議なども行います。

【自然海浜保全地区】
開発によって失われた自然の砂浜などを保全するための制度である「自然海浜保全地区」の指定対象を拡充し、水際腺付近で藻場や干潟などを再生・創出した区域も指定できるようにします。藻場は近年、温室効果ガスの吸収源、ブルーカーボンとしての役割が期待されています。

【その他】
国と地方公共団体の責務として、海洋プラスチックごみを含む漂流漂着ごみ等の除去・発生抑制などを連携して行うことを規定したほか、特措法の基本理念に気候変動による水温の上昇等の影響を踏まえる旨を追加しました。

2.兵庫県の取組

兵庫県は、特措法改正に先立ち、瀬戸内海の環境の保全に関する兵庫県計画を策定し、県環境審議会で2017年から生物生息域や栄養塩類の望ましい濃度などについて審議、2019年10月に「環境の保全と創造に関する条例」を改正しました。その中で、施策の実施に当たって栄養塩を適切に管理することも定め、兵庫県水質目標値(下限値)を設定しました。

「栄養塩の出どころは陸、海底、外洋からの海流の3つが考えられるが、そのうち環境行政が問われるのは陸からの排水の部分」(環境管理局水大気課)ということで、下水処理場や工場・事業場からの栄養塩供給を図り、具体的には海域を限定のうえで下水処理場で季節別運転を実施し、栄養塩を出す運転に取り組んでいます。工場・事業場に向けては「栄養塩供給に係るガイドライン」(ナレッジ集)を作成し、排水口の統合や脱窒工程の見直し例などを業界団体の会議などで紹介して、栄養塩類の供給推進への協力を求めています。また、今後は畑に肥料を撒くように、栄養塩が必要な海域に窒素・リンを補う方法も視野に入れて、実際に行う場合にはモニタリング、効果の確認、環境影響などを調査していくとしています。